ココニコのキモチ

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いろどり工房ココニコ管理人(ボランティア)のキモチブログです。日常生活と本職(教育分野)の気づきのお話をしています。

日本の中学を卒業しないという選択

5に成り立ての頃にはじめて出会い、それから中1を終えるまでの3年間とことん接した男子生徒がいます。昨年の春に閉鎖しましたが、担当していたデジタル教材を使って学ぶという個別学習の施設でのことでした。
彼はディスレクシアと呼ばれる症状がありました。
知的能力はまったく問題ないのですが、文字の読み書きが困難という症状のことをディスレクシアといいます。
今、彼は中学3年生です。

 

その彼が先週のある日の夜、飛行機でカナダへ旅立ちました

日本の中学を卒業するという普通の進路ではなく、カナダのバンクーバー島にある公立高校へ進むためです。

 

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カナダの公立高校はグレード制という方式です。
日本の学年という考え方に相当するのではないかと思いますがグレード9~12に14-17歳までの生徒がいて、日本の高校に相当します。
日本の中3から高3の4年間がカナダでは高校だと思えばいいと思います。9月が新しい学年がはじまる入学時期となります。
一人でカナダに渡るので、カナダ人のホストファミリーのお宅に居候することになります。

 

私は彼に出会うまではディスレクシアという言葉もよく知りませんでした。
教育分野が専門でしたので、今思うと恥ずかしい限りです。
小5になったばかりの彼から話を聞くと、教科書や本の文字が私とはまったく異なる世界のものとして見えているというのがわかりました。
奇妙な生き物のように見えていたのだと想像しました。
文字を読もうと思っても、ものすごく大変な思いをして一文字、一文字と向き合っています。
でも話をすると、それ以外の面では、とてつもなく能力は高く、もし文字が普通に読めていたら優等生だったと思います。

 

日本の教育機関ではディスレクシアに対する理解は悲しいくらい乏しいものでした。
私が接していた小5から中1までの3年間もいろいろな出来事がありました。
いろいろな接し方を大人からされていました。
原因がわからなかった時は、怠けているからできないんだと責められたりしたこともあったようです。

 

日本にディスレクシアの子供たちがどのくらいいるのか正確なことはわかりません。
ディスレクシアということをわかってもらえないまま、置き去りにされ、深い失望感の中で生きている子供たちが大勢いるのではないかと思います。


先日、ミッション:インポッシブル/フォールアウトという映画を観てきましたが、主演のトム・クルーズディスレクシアだと自ら公表しています。
トム・クルーズに限らず、ディスレクシアの著名人は大勢います。
海外では、指導法がかなり確立されていて、克服していくための方法論が広がりつつあります。カナダのバンクーバー島にある公立高校も積極的にかつ科学的にディスレクシアの生徒と向き合っていました。

 

日本ではあまり多くは教育機関での対応は期待できず、本人とご家族が孤独の戦いを強いられることになりますし、進路も住んでいる場所によって限られたものになります。
私が接した、今、中3の男子も高校受験という大きな壁が立ちはだかりました。このまま日本の中で探しても、可能性が狭まることになるのは目にみえていました。

 

何とか彼の可能性を広げる高校はないかと、探し、探し、探し、考え、考え、考えた末、家族で出した案のひとつの中にカナダの公立高校へ進むというのもありました。

経済状況も考えると、ぎりぎりの選択肢のひとつだったようです。
立派だと思ったのは、お母さんが心を鬼にして、様々な選択肢の進路の中からの決断を本人にゆだねたことです。
彼は自分の意志で決めました
言われて決めたのではなく、自分で決めたところが大事なポイントです。
親に言われて決めるのと、自分で考えて決心するのでは将来大きな差が出てきます。

 

ご家族も大変だったと思います。
今までの成績証明書、先生からの推薦状など様々な書類を用意するのは手間暇がはかりしれませんし、まず先生方が理解できないと思います。何しろ中学校を卒業せずにカナダの高校に進むのですから、普通は信じてもらえないでしょう。
教育委員会ともかなり困難な折衝をされています。

 

彼やご家族のこれまでの取り組みを見ていると、ディスレクシアは直すのではなく、活かすことではないかと思えてきます。
カナダの公立高校へ行くという選択は、自ずと自然な形でその先の進路も日本ではなく、世界で考えるということにつながります。とてつもない未来を作る可能性が出てきます。
彼の5年後、10年後の未来が楽しみでなりません。

 

未来は自分で作るということを彼には繰り返し伝えてきました。
アメリカのアラン・ケイ博士の言葉を合い言葉にしていました。
The best way to predict the future is to invent it.

 

日本の教育機関や制度の中では限定した未来になってしまったと思いますが、自らの力と家族の応援でわくわくする未来になっていくに違いありません。
未来は自分で作る。
私も負けてはいられないなと思います。