ココニコのキモチ

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いろどり工房ココニコ管理人(ボランティア)のキモチブログです。日常生活と本職(教育分野)の気づきのお話をしています。

武蔵野美術大学芸術祭 その2「文章読解力」

2020年大学入試改革の準備が進んでいます。
センター試験は廃止され、新たな試験が開始されます。
高校と大学の教育を一体で見直すという高大接続改革の一環です。

改革の根底にあるのは、子供に「学力の3要素」を求めることです。
ひとつ目が以前からある「知識・技能」
ふたつ目が知識・技能を土台にした「思考力・判断力・表現力」
みっつ目が「主体性・多様性・協働性」
入試も「学力の3要素」を子供が持っているかをみるための試験になっていきます。
国語や数学は記述式の問題が増え、英語は「読む・聞く」中心から「書く・話す」能力をみる形に変わります。
これらの力を身につけるために「アクティブ・ラーニング」「グローバル教育」「ICT教育」「キャリア教育」、「プログラミング教育」などが流行り言葉になっています。

どこが武蔵野美術大学(愛称ムサビ)の芸術祭の話だと思われたかと思いますが、ムサビの芸祭で必ず行く場所にその答えがあります。
ムサビの芸祭に行くと必ず12号館の最上階に行きます。
毎年、ここで、その年の入試で合格した実際の作品の実物を見ることができます。

娘が卒業した視覚伝達デザイン学科の今春の入試問題を見てみましょう。
パネルがありましたので、まずその写真をご覧ください。

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鉛筆デッサン(3 時間)
【問題】
与えられたモチーフ(麻糸)を手であやつり、 そこで起こるモチーフの特性と手を描きなさい。
【条件】
1. モチーフの麻糸は切ってはならない。
2. 結束用の糸ははずすこと。
3. 結束用の糸と包装材はモチーフではない。
4. 答案用紙は縦横自由。
5. 目隠しカードの上に、画面の「上」を示す
矢印「↑」を必ず書くこと。
【配布物】
1. 試験問題
2. 答案用紙(B3画用紙)×1枚 3. 麻糸×1個
4. 下書き用紙(B4上質紙)×2枚

 

パネルには出題意図と評価のポイントも紹介されています。

【出題意図と評価のポイント】 手で触ると目で見るだけでは分からないことに気付きます。同 じような色やカタチでも、太かったり細かったり、硬かったり 柔らかかったり、ゴツゴツしていたりツルツルしていたり、ピン としていたりグタッとしていたり。それを操る手にも表情が生 まれます。あなたがそこで見つけた出来事を人に伝える手段 の一つにデッサンがあります。参考作品の描写から「見てみて! こんなことを見つけたよ! 」という声を楽しんでください。

 

教育を仕事にしている者にとっては、わくわくするような入試問題です。
この入試問題で一番大切な能力は実は「文章読解力」です。
もう一度、問題文と条件をよく読んでみて下さい。
問題文と条件を読み込み、理解することができなければ、出題意図とはまったく異なることに3時間を使うことになります。

問題文だけもう一度読んでみましょう。
【問題】
与えられたモチーフ(麻糸)を手であやつり、 そこで起こるモチーフの特性と手を描きなさい。

 

モチーフである麻糸を手であやつり・・・「あやつり」という言葉は奥が深いですね。
そこで起こるモチーフの特性・・・あやつることで、麻糸の「特性」を見いだす目が必要ですね。
と手を描きなさい・・・麻糸と手の関係性、相乗効果が出せることが大切ですね。

さらさらと書かれている問題文を条件も読み、どう処理するのか、想像するのか、とてつもない能力を要求する入試問題です。
なおかつ、3時間で仕上げる必要があります。
日頃の練習量と経験が土台として必要になります。
単純にパッと見がきれいな絵では合格できないのです。

デザインの道に進む受験生は藝大デザイン科かムサビの視デ(視覚伝達デザイン学科)、多摩美のタマグラ(グラフィックデザイン学科)を志望することが多いのですが、これらはどこも入試問題がとても特徴的なものであると同時に、とっくに2020年大学入試改革で求められる学力の3要素だけでなく、その上の力を要求するものになっているのです。
早稲田と慶応は一般私大の2トップですが、美大では多摩美とムサビが2トップに相当します。だからでしょうが、ムサビと多摩美の他の学科も単純に作品を描けばいいという入試ではありません。ものすごく考えられた入試問題であると同時に、2020年大学改革の先を行こうとしていると思います。
「学力の3要素」は、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体性・多様性・協働性」ですが、こんな単純な言葉では表現できない努力の裏付けがある能力が求められています。さらにムサビの視デを例にあげると3時間の試験が2回ありますので、体力も求められます
ムサビの芸祭に行くと、春に入試試験会場で真剣な戦いをし、合格した受験生の生の作品を鑑賞することができます。

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毎年、問題文を自分なりに読解し、ふむふむと考え込んでから、合格した受験生の作品を一枚ずつ鑑賞するのが、毎年恒例の行動になっているのですが、自分自身にとって貴重な学びの機会となっています。
勉強ができないから美大でもという発想は大きな間違いです。
賢いだけでなく、奇想天外な発想の持ち主と努力家の大学生に出会う確率が高いのです。