自宅のリビングのテーブルのところに何気なく一冊の本を置いていました。
これです。
タイトルは「命みじかし恋せよ乙女」。
弥生美術館というところで開催されていた展示会に合わせて作られた書籍です。
展示会のタイトルは「命短し恋せよ乙女~マツオヒロミ×大正恋愛事件簿~」展。
実は9月24日で終了してしまったのですが、やっと会期中の最後の土日に時間の余裕ができたので、書籍を見せながら「一緒に行く?」と我が奥様に聞いてみました。
表紙のマツオヒロミさんのイラストが目に引いたのでしょう、書籍を手に取りぱらぱらと読み始めました。
じっと読んでいます。
・・・
やがて、微妙な表情・・・。
微妙な、空気・・・。
「私はいいから、ひとりで行ってきて」
とにこやかに言われてしまいました。
マツオヒロミさんのイラスト作品を見てきたと言ったら、後でずるいと言われるかもと思ったので、誘ってみたのですが、どちらかと言うと主のテーマは大正時代に頻発した恋愛事件です。
書籍の中でも座敷牢で死んだり、自殺したり、心中したり、銃殺されたり・・・確かに夫婦でいくものではないかも知れませぬ。
展示では様々な事件・・・事件というべきかどうかはわかりませぬが・・・事件にまつわる当時の写真や手紙、新聞記事など約200点が紹介されています。
ということで、ひとりで「命短し恋せよ乙女~マツオヒロミ×大正恋愛事件簿~」展へ行ってきました。
千代田線の根津駅から徒歩で10分ぐらいのところにあります。
とことこと、坂を歩いて目的地に向かいます。
この坂は、弥生坂と言います。
看板もありました。
30年ぐらい前に東大地震研究所の先生と一緒にCDに映像を入れた教材作りをしたことがあるのですが、その時に歩いた懐かしい坂でした。
坂を登り切り、当時と同じ住宅街の道を歩いて行くと東大農学部の前に出ます。
大学という雰囲気のある素敵な建物です。
東大農学部の斜め向かいにあるのが弥生美術館です。
こちらも素敵な建物です。
奥が入口ですが、しばし悩んだ結果、左にあった別の入口に入りました。
夢二カフェ「港や」です。
喉が渇いていたので、珈琲を飲みたくなったのと、看板のケーキに吸い付けられてしまいました。写真のケーキが伝統的なガトーショコラに見えたのです。昨年、お付き合いでチョコレート検定なるものを受け、ショコラアドバイザーの認定を受けてから、ますますチョコレートにまつわる知識を吸収する機会が増えた影響でしょう。
店内に入ると2階を案内されました。
まだ午前中で、普通、美術館を観てから寄るものですので、店内は私ひとり。
素敵な雰囲気と空気が漂っていました。
ケーキセットでガトーショコラと珈琲を注文しました。
正統派の作り方をしたガトーショコラでした。
満足、満足です。
伝票にはかわいらしい動物の紙挟みがついていました。
さりげない様々な配慮が感じられました。
さて、いざ美術館へ。
チケットのお金を入口で渡していたら、先ほどの喫茶店の店長さんが走ってきました。
どうしたのだろうと思っていたら、「ケーキセットを頼んだ方ですので、入場券は割引きでお願いします」と受付の方に告げて下さいました。
心遣いが素敵です。
入場券の半券を見せると喫茶店が割引きになるのですが、逆に入場券で割り引いて下さいました。
あたたかいキモチで中に入っていきました。
いただいた入場券も情緒あふれるものでした。
会場へ入っていくと音楽が流れています。
「ゴンドラの唄」でした。
芸術座の「その前夜」の劇中歌として作られ、松井須磨子が歌い、大正時代に大流行した曲です。芸術座は島村抱月と松井須磨子が結成してできたのですが、世界に猛威をふるったスペイン風邪で島村抱月が急死すると、翌年、松井須磨子は後追い自殺をしています。
下調べしていたということもあるのでしょうが、小さな美術館でしたが、1時間半ぐらい滞在することとなりました。何事も予習が大事ですね。得るものが違います。
平塚らいてうが夫に宛てて送った手紙は初公開と書かれていました。
女性解放運動、反戦や平和運動の闘士というイメージを持っていたのですが、初公開の手紙からはおだやかな女らしさしか感じませんでした。
宛名には「私のただひとりのたいせつな博さま」と書かれていました。
大正時代の男女の事件を観に行ったつもりが、ちょっと違うキモチになりました。
今と違い制約が多く、時代の空気も違う中での生き方に圧倒されました。
家長たる男子は絶対なのだという家制度では、自由な恋愛は御法度だったというのが、写真や資料、遺品から伝わってきます。
教科書でしか歴史を学んだことがないと言っていた大学生に出会ったことがありましたが、教科書は教科書を作った時代の空気が反映されているので実はちょっとゆがんでいると思います。自ら学ぶ、学び続けることは繰り返し子供に伝えるべきなどと思いました。歴史は暗記ではなく、思考力が必要な教科です。だから面白いのです。
いろいろな学びのある場になりました。
マツオヒロミさんのイラストもすばらしかったです。
完成された作品だけでなく、デッサン途中の原画もありました。
帰りに記念に絵はがきを買いました。
左の絵はがきは竹久夢二の恋人のひとり!である小説家・山田順子さんのイラストです。
山田順子さんは結婚して3児の母になりますが、夫が破産して離婚。
その後、竹久夢二や作家・徳田秋声と愛人関係になりました。
当時の山田順子さんの写真もあり、じっとイラストと見比べてしばし眺め、どういう人物だったのかという展示をじっと見つめ・・・ということをしていて、気になったイラストのひとつでした。
残念ながら9月24日で終わってしまったので、興味のある方はこちらの書籍をどうぞ。
美術書コーナーがある大型書店だと置いてあることが多いですので、ぜひ実物をみてください。
大正時代の文豪の世界の恋は命がけだったのかというのが豊富な資料とともに掲載されています。弥生美術館で展示されていたものが多数収録されていて、マツオヒロミさんの描き下ろしイラストが3点収録されています。
ぜひどうぞ。
ちょっと長くなりましたので、今日はこのくらいで。
次回は別の乙女の話を予定しています。